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第 7 回 従業員と経営者の間に、友情は成り立つか?

2017.04.29

 飲食店経営者に限らず、リーダーが誠実であればあるほど、部下との人間関係をどのように構築するかに心悩ませます。
 何れの業種であれ、収益も成長発展も何も彼もが、従業員の尽力の成果が形になったものですから、従業員と経営者との信頼関係が築けなかったならば、総てが崩壊する事態さえ起こりかねません。しかも専門技術を教えなければならない人員との間には師弟関係もが存在するわけですから、リーダーには、厳格さと慈母の眼差しとを併せ持ち、心理的綱渡りをこなすことまでもが求められます。
更には従業員・社員を単に人財と認識するだけで終わりにせず『 一人一人を固有の人格として認め 』腐心することが、経営者やリーダーにとって必須の責務になると考えます。

 今回のコラムのタイトルには、私共のクライアントさん( 飲食店経営者 )からいただいたご質問を、そのままの形で引用させていただきました。

 ご質問くださったクライアントさんには、問いに対し以下と同内容の話をして差し上げたのですが、結論から申し上げると、従業員さんとの人間関係構築の成否はそれ自体を目的とするのではなく、経営者が①『 愛される店を作ること 』そして②『 収益を挙げ従業員の幸福に寄与すること 』の、以上二つに真摯に取り組み格闘した結果の、『 副産物 』として捉えるべきであると思うのです。
 そしてもう一つ。
前述二点の経営目標は、概ね、課題を的確に把握し、そこへ企業努力を傾注することにより、次第に達成されてゆきます。しかしながら個々の人間関係構築に限って申し上げれば、いかに誠意をもって向き合っても、その過程で生じる避け得ない誤解、経営者の至らなさ、或いは従業員さんの理解不足などによってその時々の成否・成果は、期待とは違ったものになってしまうことがある、と、その様に心得るべきであるとも考えます。
 親子の関係でさえ、一筋縄では行かないものです。人事を尽くした結果であれば、例え、その個々の副産物が不本意なものになってしまった場合でも、それが人生だと達観甘受し同時に『 そこから先への教訓として活かし、そして更に前進する 』。
リーダーたる者は、そう腹を括るべきではないでしょうか。

 私事を申し上げると、私も41年飲食店経営生活を続けましたから、その間、実に多様なキャラクターの人々と仕事を共にしてきました。それらの日々を今振り返ると、様々な出来事が、次々と思い出されます。
 好青年だと思って採用したスタッフに向上心が無いため、全く進歩が見られない事例もありました。一方、三日で辞めてしまうだろうと思った若者が努力を重ねて別人の様に成長し、何年もの後とは言え、立派な私の右腕になってくれた幸運もありました。屈折した考え方や心理を持った人に手を焼いたことも、稀ながらですがありました。
また、離職して20年経って猶、お互いが大切な友人同士でいる関係もあれば、理解を得られなかったり或いは私がスタッフの気持ちを汲み取り切れなかったりしたため、気まずい辞め方をさせてしまったケースも、苦い経験として記憶に残っています。

 しかしながら失敗を随分としてきた一方で、試行錯誤の末の収穫である『 気付き 』或いは確固たる心証もまた、数多く得ることができました。
 
 私の店のスタッフの多くは、私の言っていることを聞きながら、同時に私の『 本気度 』をも観察していました。
つまり彼等は、私がスタッフ達に求めていることを、私自身が本物の『 志 』として持っているのか、それとも看板にしているだけなのか? 自分達を上手く使いこなそうとしているだけなのか、それとも人として、また職業人としての成長を願っているのか? 彼らを大切な存在として、想っているのか? この様な私の心の内を、仕事に励みながらじっと見据えていたのです。
 また老若男女、出身や国籍、学歴、能力などに拘わらず、人としてスタッフ達を、私が対等に敬意と感謝の念をもって接しているか? スタッフの笑顔と誇りを守ろうとしているか? スタッフ間の人間関係やチームワークを私がサポートすることによって、店を、明るく楽しく働ける環境にしようとしているか? そういった私の心根にも、スタッフ達は関心を寄せていました。
 そして、給与等の基本的な労働条件が程好い水準をクリアしているかどうか、更には、スタッフが今後の人生の為に得たいと希望している『 正確で高度なスキル 』を惜しみ無く、かつ懇切丁寧に教えているかどうかによっても、彼等に対する私の心情が量られていました。

 以上に列挙した事柄は、私が長年スタッフ達から直接、或いは間接に教えられてきた、働く人々の心の内のほんの一部です。
 
 これらは偶然にも、最初欧米で重視されるようになり最近は日本の飲食業界でも認知され始めた『 従業員エンゲージメント 』を推進する原動力の中の、必要最低限度の要件とも合致します。そして私のスタッフ達から教えられた、古くから続く『 働く人々の心の内 』とこの従業員エンゲージメントの要件とを並べ眺めてみると、人間の感情には普遍性が有り、時代が変わり国が違っても、働く人々の、仕事や職場に対する満足感・充足感やアイデンティティーの源泉は、何ら変わるところが無いということが解ってきます。
 
 従ってその理解を充分に深めさえすれば、経営者は従業員との人間関係のみに汲々とする必要はなく、本コラム冒頭で申し上げた二点の『 経営者の果たすべき職責 』を営々と真摯に積み上げてゆけば善いだけです。そうすれば人間関係も従業員エンゲージメントも自ずと目指すところへ近づいてゆくというものです。
 計算高く思考や行動を組み立てても、それだけでは、往々にして良い結果は得られないものです。
ましてや真の人間関係を望むのであれば、そこに姑息な駆け引きなど持ち込むべきではありません。
 人生においては『 幸福 』が求めるものではなく、結果と捉えるべきであるように、事業でも人間関係でも成功は、原理原則を大切にした結果の『 果実 』として、手にしたいと強く思います。

 想えば幾つもの民族もが、『 何事でも自分にしてもらいたいことは、他の人にもそのようにしなさい 』という、相似する黄金律をそれぞれに戴いてきました。この不思議な偶然は、争いの人類史の反省の中で、人々の理性から生まれてきた『 必然 』だったのではないでしょうか。
 
 経営者が全てのことを、自身が働く者の身になって考え、それをもって相互の調和を図る。
この『 黄金律 』のスタンスに立つことこそが、企業経営のみならず、人生にとっても失敗に至らないための、最も賢明な道だと確信します。

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