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第 32 回 人としての、原理原則を守ることの重要性

2022.09.14

 コロナ第7波の終息が見通せない中、東京23区の消費者物価指数( 8月の速報値 )が発表されました。食用油を始め食材や光熱費など、コスト上昇に歯止めがかかりません。また昨日は企業物価指数が発表されましたが、前年同月比9%と過去最高で、5か月連続の上昇となりました。
米国の消費者物価も、コア指数が上昇しています。米国の高インフレが止まらない限り米国金利上昇と円安は続きますから、円換算で前年同月比42%もの上昇を記録した日本の輸入物価が、下げ止まらないことは明白です。諸事情を勘案すると、今後益々インフレ圧力が高まり、飲食店経営を圧迫することが予想されます。

 実は主な外食チェーンの7月の売上は、第7波の感染拡大で後半の客足が鈍かったにも拘わらず、メニューの値上げが売り上げを押し上げたこともあり、前年同月比で14,5%増えていました( 日本フードサービス協会の調査結果 )。しかしながら、今後の物価上昇の水準によっては、かつて無い幅の値上げに踏み切らざるを得ないことも想定されます。協力金が無くなる上に融資の返済を迫られるお店も有るでしょうから、皆様のお店に合った対策を模索し、来るべき難局を切り抜けていただきたいと思います。

 一般論を申し上げますと、営業収支を左右する要因は、①商品力、生産性( 仕事を減らす為の省力化、機械化、無人化も含む )、ホスピタリティー、サービスなどの向上の成否と、②理に適ったコストコントロール、であります。
また、お客さんが納得してくださるのなら、③値上げも健全な継続営業を守ります。ただ、大幅な価格転嫁は客数を減らし、かえって経営圧迫に繋がりかねません。従って値上げが容認される為には、①値上げ幅がお客さんにとって許容範囲内かどうか、②皆様のお店がお客さんにとって掛け替えの無い店か否か、以上2点が明暗を分けることになります。
掛け替えの無い店は、お客さんから『 信頼 』され、『 敬愛 』され、『 愛惜 』されることで、初めて生まれます。本コラムではこれらを獲得する為に、『 人としての原理原則 』を守ることが如何に重要であるか、お話ししたいと思います。

 私達は幼少より『 人に会ったら挨拶する 』『 何かしてもらったらお礼を言う 』『 人を思いやる 』『 ミスが有れば謝罪する 』『 時間を守る 』など、社会生活で大切なことを躾けられて育ちます。
そしてこの躾が身に付くと、周囲から好感を持たれ、評価され、仕事にも好影響が及びます。世間では、上記の良い習慣を指して、人としての原理原則とする傾向もあります。しかし私はこれだけでは、褒められることは有っても人を感動させ、心を動かすまでには至らないと思うのです。
 以下に、私達は何をもって『 人としての原理原則 』と考えるべきなのか、申し述べてまいります。
 
 古今東西を通じ、涙が出るほど素晴らしい人物が数多おられ、その言動に心奪われます。
数ある事例の中から本コラムでは、今回のタイトルに相応しい、恵隆之介著『 敵兵を救助せよ! 』に描かれた世紀の救出劇を、ご紹介したいと思います。
この本は、救助された元英国海軍少尉サムエル・フォール卿( 駐スウェーデン英国大使などを歴任した外交官 )による英タイムズ紙などへの投稿や著書に触発され、恵氏により書かれました。従って英国側の事情は、フォール卿の記述や元英兵達の証言に拠るものです。以下は、その概要の一部です。

 1942年2月27日から3月1日にかけ、インドネシアのスラバヤ沖で、日本海軍が米国・英国・オランダ・オーストラリアの連合艦隊と激戦を繰り広げました。
この海戦では日本艦隊が敵艦船14隻中11隻を撃沈して勝利し、撃沈された英重巡洋艦『 エグゼター 』と英駆逐艦『 エンカウンター 』から、乗員四百数十人が流れ出た重油の海に投げ出されます。その後彼等は21時間漂流することになりますが、通り掛かった日本海軍の駆逐艦『 雷 』が、艦長の工藤俊作中佐の指揮の下、丸一日をかけ422人もの敵兵を救助したのです。
 戦時下では、海難救助中の戦闘艦ばかりか病院船までもが攻撃され、多数の死者を出す事例が珍しくありませんでした。艦の減速を伴う救助作業は、敵の攻撃を容易にします。その為に国際法では、仮に海上遭難者を放置しても、違法ではないとされています。
当初、『 雷 』の乗員の中には、この極めて危険な救助活動に、不満を漏らす者もいたそうです。
それにも拘らず完遂できた理由は、この時に艦長であった工藤俊作中佐が、部下からの人望が篤く大変に慕われていたこと、更には『 敵とて人間 』という工藤艦長の、確固たる信念が有ったからでした。
救助活動が始まった時には、何人もの英兵が『 雷 』に近付きながら、気力・体力の限界だった者は、力尽き次々沈んでゆきました。この光景を見かねて一人二人と『 雷 』の乗員が海に飛び込み、立ち泳ぎをしながら敵兵の身体や腕にロープを巻き、甲板に釣り上げ始めました。ここまでくれば、敵も味方もありません。さして大きくはない『 雷 』の120人の乗員が、広い海域で漂流していた自艦乗員の2倍の敵将兵を一日がかりで『 雷 』に収容し、重傷者も一人として見捨てなかったのです。

 この奇跡とも言える救助劇は、サムエル・フォール卿の手になる英タイムズ紙などへの長文の投稿や著作により、広く世界に知られるところとなりました。その記述や証言によると、『 日本海軍の水兵達は、しっかりと、しかも優しく、我々の体に付いた油を拭き取ってくれました。正に奇跡が起こったと思い、これは夢ではないかと、自分の手を何度もつねりました 』とのことです。
また工藤艦長はその後に集合させた英士官達を前に、流暢な英語で、『 貴官達は、勇敢に戦われた。今や貴官達は日本帝国海軍の、名誉あるゲストである 』とスピーチしたそうです。このスピーチは居並ぶ英士官達を感動させ、サムエル・フォール卿は、『 生涯忘れられない出来事 』と語っています。卿の著書( My Lucky Life )の巻頭には、『 元帝国海軍中佐工藤俊作に捧げる 』と記されています。

 イギリスには戦後、日本軍の捕虜になった英軍将兵達が、『 虐待された 』と喧伝し、日本に賠償を求める動きが有りました。また、1998年5月には天皇皇后両陛下( 現在の上皇ご夫妻 )の訪英予定がある中、元捕虜達はこの訪英に反対していました。天皇の謝罪を求める意見広告も、新聞各紙に掲載されたのです。しかし同じ日の英タイムズ紙に掲載されたフォール卿の『 友軍以上の処遇を受けた 』ことを強調する投稿記事によりその反日感情は、ことごとく覆されたのです。
 まだまだお話ししたいことは尽きないのですが、切りが無いのでこのくらいにしておきます。

 今回ご紹介した工藤俊作中佐には、生き方の根底に、『 人は手段ではなく目的であり、人の価値と尊厳は、立場の差異に関わらず等しい 』とする信条が有り、その信条と言動が一体を成しています。
私は、人の心まで動かしたこの確固たる信条こそが、『 人としての原理原則 』と呼ぶに相応しいと思うのです。

 私は常々クライアントさんやその従業員さん達に、スーパーでも郵便局でも何処ででも、そこで働く人達には意識して、お客さんに対すると同様に接するようお勧めしています。その理由は、これが習慣となり当たり前のことになると、人に対して分け隔てが無くなり、人柄まで変わるからです。
もし私達が相手によって異なった対応をするならば、それは人の価値や尊厳に違いが無いことを、否定することになります。
また最近は少なくなりましたが、相手がお客さんだと『 米つきバッタが手もみする様に 』へつらうのに、自分が客の立場だと、打って変わって横柄になる人がいます。この様な人はお金に頭を下げている訳で、相手への敬意も感謝の念も、持っていないことを宣言する様なものです。
 これではいくら取り繕っても、お客さんにそんな猫かぶりは、直ぐ見透かされてしまいます。
 
 何れにしても、相手に関わらず敬意と感謝の念を持つようになると、接客は、見違えるように進化してゆきます。料理にしても恋人や自分の子供など、大切な人の為に作っていると思えば、味も見かけもどんどん良くなってゆくのです。『 ママの作る料理が世界一美味しい 』のは、万国共通ですものね。
お客さん方は、例え意識していなかったとしても、『 自分のことを大切に思っているか 』を肌で感じ取っています。
 皆様も、どこへ行っても誰に対しても、心からの敬意と感謝で接してみませんか?

 私は今日もスーパーで『 いつも有難うございます 』と言われたので、満面の笑みで( マスクで充分には見えませんが )心から、『 こちらこそ 』と言って帰ってきました。

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