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第 28 回 『 愛される店作り 』 Part 2 人の心を動かすものは、結局は人の心

2022.02.04

            やって見せ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ。
            話し合い、耳を傾け承認し、任せてやらねば人は育たず。
            やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず。
                                              ~  旧日本海軍連合艦隊司令長官 山本五十六 ~

 諸外国のコロナ感染状況にバラつきがある中、我が国では新規感染者数の記録更新が続いています。また、ステルス・オミクロンと呼ばれるオミクロン株の亜種が、世界中で広がり始めました。感染力が極めて強いオミクロン株ですが、ステルス・オミクロンは、その1,5倍以上との分析結果もあります。
今後の推移を確定的に予測なさる専門家はおられませんが、諸事情を勘案すると何れ日本政府は、例えばコロナの感染法上の位置づけを、2類から5類へと変更させるつもりなのかとも考えてしまいます。
もし5類に引き下げられるようなことになってゆけば、営業制限と共に協力金や補助金など種々のコロナ関連支援策も無くなります。従ってその様な事態になれば、私達は人手不足やインフレも乗り越え、不確実性の時代と本格的に向き合わざるを得なくなってゆきます。その際に最も有効な武器となるのは『 愛される店作りへの日々の更新 』と、『 新たな販売促進方法の開発 』であります。
 今回のコラムでは、以上2つの大命題を実現する為に何が必要なのかを、お話ししてまいります。

 新規開業の場合には、周到な準備と教育やトレーニングを行うことができます。しかし既存店舗での従業員さんの意識改革は、どこかで線引きをし、営業を続ける中で始めるしかありません。
その際、皆様が従業員さんに対し、『 あなた方がより幸せな気持ちで仕事ができ、待遇や処遇も今まで以上の店にしたい。その為に、もっと沢山のお客さんに支持されるお店にしたいのです 』とお話しになり、協力を求められるようお勧めいたします。 皆様のお店を、お客さんにとっても従業員さんにとっても最高のお店にしたいのだと率直に語り掛けられれば、従業員さんの理解と賛同は得られると考えます。

 これから申し述べますことが皆様の参考になりましたならば、心から嬉しく存じます。皆様のお店の実情に合わせた工夫も加え、盤石のお店作りをしていただきたく思います。

 もし、強い指導力を発揮しようとする人物の能力が高く、人間的魅力も兼ね備えている場合には、人は進んでそのリーダーシップに従おうという気持ちになります。
その様な、人望を呼ぶリーダーの資質はインテグリティー、共感力、温情、品位、知性、識見、公正、健全な情熱などですが、これらを併せ持つ人物が率先垂範すれば、その行動が組織全体に浸透するのは自然な成り行きです。

 その典型的な例は、本コラムの冒頭の言葉を遺した、山本五十六元帥に見ることができます。
山本元帥は当時の日本海軍の中では、名実ともに最高の指揮官でした。そして人として立派でありながらお茶目でもあり、しかも自らに厳しく他人には寛大であった為、誰もが敬慕し懐く様な偉大な人物でもありました。
その山本元帥が航空母艦『 赤城 』の艦長だった時のこと、配下の戦闘機乗務員は禁煙を宣告されていたのに、多くは無視を決め込んでいました。そこで、大変な愛煙家だったにも拘らず元帥は、『 私も煙草好きだが日本の為だ、君達ばかりに止めてはおかぬ 』と自ら禁煙を宣言し、実行もしたのです。その効果はてき面で、全戦闘機乗務員の禁煙は徹底され、元帥はと言うと、以後も禁煙を貫かれたそうです。
また軍隊では『 挙手の礼 』を行いますが、山本元帥は挙手の礼を受けると相手が下級兵であっても、瞬時に美しい答礼をなさいました。更に、元帥は老若男女を問わず接する人を温かく受け入れ、部下が戦死すると遺族には自筆で手紙を書き、墓参をすることさえありました。
一事が万事と申しますが、元帥は人間の尊厳には兵も将校も元帥も無いという、強い信念を持っておられたのです。
私は、戦争自体も真珠湾攻撃も、決して肯定するものではありません。しかし誤解を恐れず敢えて申し上げますが、兵士達が高難度かつ厳しい訓練を繰り返し、真珠湾攻撃を成し遂げた秘密は、元帥の人柄に負うところが大きかったと言われています。

 諸々を考えますと私は、経営者も店長も私達の様なコンサルタントなども、およそ人の上に立つ者は、下の立場の者のお手本でなければならないと強く思うのです。『 お客さんを満足させよう、大切にしよう 』と言いたいのであれば、自らが区別なく人を大切にし、満足させるよう心掛けねばなりません。
 
 例えば私がどちらかのお店で仕事をさせていただく場合、原則として従業員さんと一緒に働き、お願いしたいことは自ら範を示します。そして従業員さん達の良い仕事や長所を必死で探し回り、それに気付いたらすかさず褒め、その成果は全員で共有します。私は従業員さんの心の変化には胸がいっぱいになりますが、その気持ちは率直に、精一杯伝えます。また、最も大切なことは、従業員さん達のことをよく知り、好きにもなることだと考えています。どんな人にも良い所は必ずありますから、そこに視点を置き接していれば、必ず相手を好きになってゆくものです。

 『 産業・組織心理学 』という学問分野が有り、2015年に心の専門家として初の国家試験『 公認心理士 』が法制化されました。2018年には資格取得者も誕生しましたが、産業・組織心理学の歴史的変遷を辿ると、種々の理論を遺した学者はおられますが、未だ決定的な理論は存在していません。その理由は明白で、人の心は千差万別・複雑なものであり、その個々の心に寄り添い模索すること無くしては、より良い判断に近付くことさえ困難だからです。
従って、小手先の懐柔や説得で人を動かそうとするのではなく、常に良い方法は無いかと必死で考えることが肝要であります。そうしているうちに気持ちが相手に伝わり、良い結果に繋がる可能性が出てきます。
 私は、人の心を動かすものは、結局は人の心でしかないと考えています。

 一方、前述のリーダー論とは矛盾するようですが、私は人間の特性の一つに、『 他人から指図されるのが嫌いで、自分が良いと思うことは言われなくても進んで行う 』ことが挙げられると思います。
つまり何か目標を目指す場合に上意下達よりは、合意による意思決定の方が推進力は大きくなるということです。
 お客さんの心をしっかりと掴む『 ホスピタリティー 』『 サービス 』『 美味しい料理  』が、お客さんに対し『 愛情を我が事として注ぐ 』ことで生まれるという理屈は、よく考えれば誰でも思い至ることであります。しかし、それを嬉々として積極的に実践してもらえるか否かが肝心な課題で、私は、上から従業員さんの耳にタコができる出来るほど言って聞かせても、それだけでは効果が挙がらないと考えています。
 人から言われたことの力は弱く、すぐに忘れてもしまいます。しかし自分で見付けた答は、一生忘れないものです。
従って、例えば機能的で強力なマニュアルが欲しい場合は、従業員さん達の衆智を反映させて、制作なり改良なりすることが最善の方策だと考えます。
 その為クライアントさんのお店での私の仕事は、いつも従業員さん達が好む話題も織り交ぜながら、どの様に仕事をしたいのか、またどう仕事をすれば楽しく働けるのか、聴き取る作業から始まります。
何故ならば、初め私は従業員さん達にとって『 よそ者 』である為、人間関係の構築が、先ずは必要になるからです。ご家族のことも含め個人的な話も聞いていると、打ち解けるに連れ職場内の問題点や不満など、様々なことも打ち明けてくれるようになります。

 『 傾聴 』という言葉が有りますが、私はこれを人の上に立つ者にとっての必須条件だと考えます。
敬愛の情は相手を説得することで生まれるのではなく、よく考えを聴き、理解しようとする姿勢を感じ取ってもらうことで、やっと芽生えるものです。本田技研工業を創業した本田宗一郎さんは、社員さんが何か言い始めると、その場で話をいつまでも聴いていたそうです。

 私も本田宗一郎さんに倣い傾聴をしたことで、従業員さん達が体験したお客さんの嬉しい反応、反対にお客さんからの苦情や注文なども、話してもらえるようになりました。
ここまでくれば、どうすればお客さんを喜ばせることができるのか、何が集客に繋がるかなど、踏み込んだ言葉のキャッチボールができるようになります。

 もう一つ、クライアントさんのお店での私の経験を申し上げますと、従業員さん達は、『 社長さんは皆さんを有難い存在だと仰っていましたよ 』『 皆さんのお人柄を褒め、よく頑張ってくれていると言っていましたよ 』という類の話を、殊の外喜んで聞いてくれていました。
誰でも人は、他人から喜ばれ感謝されれば嬉しいものです。そしてその喜びが励みとなって、また感謝されたい、また嬉しくなりたいという気持ちが起こり、それがまた、良い仕事に繋がるという好循環を生むことになるのです。

 本コラム冒頭の山本元帥の言葉は、人の心理の奥底まで理解した賢人による、正に金言であると痛感いたします。

 皆様が、胸襟を開き従業員さんと懇談なさりながら、協同作業で『 愛される飲食店 』の構築をなさるよう祈念いたします。

 

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