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第 19 回 飲食店の、生産性向上のために 

2019.12.17

 とうとう懐石料理店にも配膳ロボットが導入され、接客まで、アンドロイドがする時代が到来しようとしています。また最新のレストラン厨房でのスチームコンベクションによる調理を観ていると、いずれ熟練料理人は、不要になるのではとも思わされます。 
予約受付や予約台帳作りなども、ITツールを活用したり、外注したりするお店も増えてきました。
これにより経営者や店長は、長時間を要した煩雑作業から解放されるばかりか、接客や従業員教育などの、より重要な業務に専念できるようになります。また予約の取りこぼしも無くなり、予約無断キャンセル防止機能も出てきたので、得られるメリットは期待を超えています。

 以上の革新は費用対効果にさえ注意すれば、人手不足を緩和するだけなく、生産性向上の大きな要因になり得るのです。

 それでは技術革新ができない飲食店は、生産性が上がらず生き残れないかというと、決してその様なことはありません。生産性はアウトプットとインプットのバランスで変動しますから、従業員エンゲージメント・教育の成果・シフトの工夫、そして仕入れの巧拙や食材ロス削減など、あらゆる要素が関わって決まるものだからです。
 例えばせっかく最新システムを導入しても、従業員さんの意識や接客や料理が低水準では、そもそもお客さんに来店していただけません。反対に、もしハード面で見劣りしていたとしても、質の高い料理とサービスとホスピタリティーでお客さんから高い支持を得られていれば、仮に値上げをお願いしたとしてもお客さんは減らず、結果として生産性は上がるのです。
 もちろんハードもソフトも共に高レヴェルであれば、正に鬼に金棒というものです。

 さて以下に、技術革新以外で生産性を上げる為の例を、少々お話ししたいと思います。
これは私がかつて経営していた飲食店で実際に行っていた創意工夫で、皆様のお店の技術革新の有無にかかわらず、どんな業種・業態でも参考にしていただけます。しかも導入したからと言って、コストがかかる訳ではありません。
 私の店ではその成果として、お客さんに十二分のホスピタリティーを発揮できるスタッフ数を揃えてなお、高い人時売上高と人時生産性を達成していました。

 ★レジは、誰もが操作できるように、厨房とホールを分ける通路脇に配置していました。そして厨房スタッフには研修とトレーニングを施し、ホールの仕事を、何でも立派にこなせるようにしたのです。もちろん厨房では、全作業をローテーション制にしていました。またホールスタッフにも包丁の使い方を練習してもらい、盛り付けもできるようにしました。その結果、どんな時にも手持ち無沙汰で遊んでいるスタッフはいません。誰かの休憩時にさえ、また急な欠勤が出た時にさえ、穴が開くことも無いのです。スタッフの休憩も定時ではなく、店全体の流れを見計らい、そのタイミングを決めていました。
 仕事は長く続くと、必然的に集中力と能率が落ちてきます。その為、『 休憩は権利ではなく義務 』として取ってもらいました。

 ★厨房もホールも備品は、関連作業では移動せずに手が届くよう、全ての配置を工夫しました。この結果、1日通算での作業時間のロスは、大幅に減らすことができました。チェーン展開して複数店舗をお持ちの会社では、全店舗のレイアウトと作業効率との関係を、集約・分析なさることをお勧めいたします。新店舗を立ち上げる際にそのデータを活用すれば、より良いレイアウト設計だけでなく、人員配置やシフトにまで活かせるからです。個人経営の単独店舗でも、改善すべき点を整理記録しておけば、店内改装の際に活用できます。

 ★開店前の準備も、全てに合理的な手順を決めていました。
掃除をした後で野菜くずの落ちる作業をすれば、床や作業台を、再度きれいにしなければなりません。
水に浸しておけば簡単に落ちる汚れも、ごしごしこすって落とそうとすれば時間がかかります。
一事が万事と言いますが、あらゆる作業をこの道理に従い行っていました。冷蔵庫の中の食材を置く位置も、考え方は同じです。仕込みも営業中に重なると客席回転率が落ちますから、開店前に、万全の準備をしました。従って営業中はどんどん作って売るだけですから、高い回転率が実現できたのです。

 ★何の仕事でも同様ですが、特にホールの仕事は、往復の仕事を徹底しました。つまりお客さんに何かを運んだら、私達は決して手ぶらでは帰ってこないのです。これは理屈では解っていても、実践は難しいものです。研修とトレーニングで習慣化なさるよう、お勧めいたします。
お茶の減り具合も常に確認し、言われる前にお代わりを伺います。言われてからだとお茶は熱いので、お客さんは適温になるまで飲んでくださいません。その分、お帰りの時間が遅くなるのです。また食事の進み具合を注目し、良いタイミングで合計金額を計算しておきます。私達は常連のお客さんのお名前は必ず覚えましたから、『 お会計 』と言われた時には、宛名を書いた領収書まで用意できていました
( 因みに当時の私の店はPOSレジ導入前で、昔ながらのレジと、伝票と電卓を使っていました )。
お帰りの時になって、伝票計算しているお店を散見します。もし何かの作業中ならお待ちいただかねばならず、客席回転率にとって後手後手に回る仕事は最悪です。また長くお待たせすれば、お客さんからの店に対する心証も良くありません。ついでながら申し上げると、私達は個々のお客さんの味や温度の好み等、様々な把握に努めていました。

 ★客席回転率と満席率とは、飲食店の生産性を大きく左右します。そのため私達は店外の行列でお待ちくださっているお客さんに、タイミングを見計らって『 こんなに寒い中でお待たせして申し訳ありません。もうすぐご案内できますからね 』と、お詫びに伺うのです。もちろん心から申し訳が無いと思っているのですが、その際に必ず行列の人数構成を確認し、店の全員に伝えます。そして、4人掛けのテーブルにお1人様や2人連れのお客さんをご案内しないよう、また後ろの4~5人連れのお客さんが確実にテーブルを使えるよう、調整していたのです。寿々屋は、相席はお願いしませんでした。そのため私達はカウンター席の、お1人やお2人客の食後のお茶のお代わりを、テーブルに移動して楽しんでいただくことまでしていました。そうすることで後続のお客さんに、私達の思惑通りに座っていただけるからです。また空席を無くす為、予約はお受けしませんでした。

 ★トイレからお客さんが出てこられたら、一番近くにいるスタッフが、中を点検するルールになっていました。そして水などが飛び散っていたら、直ぐに拭き取っておくのです。トイレを『 店内で最もきれいな場所に 』というのが私達の合言葉でしたし、トイレの汚れをお客さんから指摘されて、私達の急ぎの作業を中断することもありません。大きな汚れは、最も手が空いているスタッフの役割にしていました。

 ★私の店は忙しい中、沢山のお弁当注文も受けていました。しかし店内のお客さんの調理とバッティングすれば、客席回転率が下がってしまいます。そこで店内の食事の進み具合によってお渡しの時間を相談させていただき、場合によっては出来上がりを見計らい、店側から電話連絡をする方法も取っていました。

 ★私達にとって最も大切なことは、『 考えること 』でした。そしてあらゆることに気を配り、時間も物も、無駄を出さないことに腐心したのです。閉店に伴う後片付けなども営業中から順次行い、残業は皆無でした。しかしこれらは全て、スタッフの協力が無ければ決して実現しません。本当に、有難いスタッフ達でした。
また振り返ってみるに、お客さんからの恩情と協力が大きかったことを、としみじみ思い出します。
食事が済んだら直ぐお帰りくださる方、席を快く移動してくださる方、店外でお待ちの順番を、譲ってくださる方までおられました。これも皆、スタッフ達が心からお客さんを大切にしてくれた成果だったと思うのです。
生産性向上というと何かドライでビジネスライクに、数字だけ追う努力を連想する方が有るかも知れません。しかし『 お客さん本位 』に徹し、愛される店作りに専心することもまた、飲食店の生産性向上につながるのです。

 業界には、セントラルキッチンばかりか自家農園まで持ち、高い生産性を誇る巨大チェーンも有ります。当然のことですが、世の中の全ての飲食店が同じビジネスモデルを目指すことなど不可能です。
例えば中小の飲食店では大量仕入れもできない為、価格競争で大手に勝つことはできません。しかしながら『 お客さんが求めているものは何か? 』を追求し続け、常に提供できてさえいれば、どの様なお店に対しても太刀打ちできるのです。

 私達が何を目的にして店にいるのかを明確にし、その認識を全員で共感・共有できれば、自ずと生産性は上がってゆくものです。
 
 どうぞあらゆる創意工夫と努力とで、来るべき厳しい時代を勝ち抜いていただきたいと思います。

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