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第 17 回 『 飲食店 』 幸福な仕事へ向けて

2019.10.14

 飲食店従業員さんの仕事は、忙しくとも安全に気を配り、お客さんの心に寄り添うことが求められます。しかも良い仕事を心掛ければ心掛けるほど、精神的・肉体的ストレスは増してゆきます。そんな中でも幸せを振り撒くスタッフさんに巡り合うと、尊敬の念を抱かずにはいられません。
 しかしながら一方で、おろそかな仕事ばかり目に付くお店も有ります。その様なお店のスタッフさん達は、労働条件が悪くて不満なのか、あるいは精神的につらいことがあるのかと心配になってしまいます。

 本来の飲食店従業員さんの仕事は、やりがいのある幸せな仕事です。何故ならば良い仕事はお客さんを幸せにする為、結果として感謝され、敬愛もされるからです。お客さんの満足した笑顔は、私達への最高のご褒美です。
それでは高度な技術が必要かというと、決してその様なことはありません。芸術家レヴェルの料理人を目指すのなら別ですが、志さえ有れば、誰にでも立派な仕事ができるようになるのです。
料理も接客も、心の表現です。お客さんを幸せにしたいと思う心根が料理の味を引き上げ、満面の笑みと温かな語り口が、お客さんの心を和ませます。
心有るお客さんであれば、手落ちは無いけれど温かみも無いスタッフさんより、仮にスマートさに欠けていたとしても、人間味あふれるスタッフさんの方に、より大きな満足を感じてくださいます。

 私のヨーロッパでの経験でも、大きなハートで仕事をするウェイターさんが、お客さんの人望を集めていました。シェフの料理よりウェイターさんの人柄に引かれ、固定客になるケースは少なくないそうです。ニューヨークのカーライルホテルでは、吃音症のドワイト・オーズリーという好人物が、尊敬を集める名物コンシェルジュでした。
この方達が体現しているのは、形式化した『 おもてなし 』ではなく、『 真心の発露 』なのです。

 またアマチュアオーケストラが、時にプロオーケストラより感動的な演奏をすることがあります。
音楽も、技術一辺倒ではない心の表現だからです。音楽に対する深い愛情と曲への共感は、技術を超えて聴衆の胸に届きます。料理も接客も、レシピやマニュアルだけでお客さんを満足させられないのと同じです。作詞家の阿久悠さんが高校野球に対しおっしゃっていた、『 未完成品が未熟を超えて、人々に夢や感動を与える 』という言葉も思い出されます。
『 ママの料理は世界一 』なのも、可愛い子供さんへの愛情が、形になったものだからなのですね。

 人が食事をするということは、他の動物がエサを食べ空腹を満たす行為とは違います。人の食事行為は精神的な喜びであり、作ることも食べることも、文化的行為でもあります。
 また飲食店には、夫婦喧嘩や仕事での失敗などにより、落ち込んでいるお客さんも来店されます。美味しい料理や温かな接客は、そんなお客さんの心を癒し平安をもたらします。しかも飲食店がお客さんに愛情を注ぐことを目指したならば、その愛情と幸福感はまるで鏡に当たった光の様に、そっくり働く人々に返ってきます。飲食店とは、そんな幸福な職場になり得るのです。

 ではどうすれば従業員さんに、お客さんの幸福感・満足感を目指した質の高い仕事を、自ら進んでしてもらえるでしょうか?
それには先ず従業員さんに仕事への心得を教育研修で理解してもらい、合理的なカリキュラムを用いてトレーニングを行う必要があります。何故ならば、仕事の目指すところがお客さんの満足だということは誰にでも解りますが、その方法を知っている人は多くはないからです。
そして研修とトレーニングを行うに当たって忘れてならないことは、成果が挙がった場合の増えた収益は、必ず従業員さんに還元すると約束することです。
 
 私は、経営者には従業員さんに対し果たすべき、主な責務が二つあると考えています。
その第一は高収益を挙げる算段をし、増えた収益を功労と必要に応じ従業員さんに還元することです。
増収分を給与待遇や福利厚生の向上に振り向けると、モチベーションが上がり、更に高収益を生み出します。どれほど美しい理屈を並べても、職能やお店への貢献度に比べ賃金が低ければ、従業員さん達の労働意欲は高まりません。
そしてもう一方は、金銭以外の報酬をも与えることです。従業員さんの成長の手助けをし、精神的報酬も与え、仕事に対する喜びや誇りを喚起することで、職場への愛着が増してゆきます。
 以上が実現してゆくと、従業員さんの仕事は単なる時間の切り売りではなくなってゆきます。
また離職者を減らし、求職者を増やすことにもつながります。その結果として、熟達従業員さんが増え生産性が向上してゆきますから、増えた収益を、また従業員さんに還元できることになるのです。

 来るべき経済減速とそれに伴って起きる飲食業界市場環境の変化は、決して楽観できるものではありません。従業員さんとのコミュニケーションを密にして、幸福な飲食店を目指していただきたいと思います。

 
 

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