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第 13 回 飲食店経営コンサルタント、『 飲食店ドクター 』としての私の仕事 (2) 新規開業支援

2019.04.20

 諸説あって判然とはしないのですが、飲食店の3年生存率は、概ね45%だと言われています。
つまり新規開業店の半数以上は、3年以内に潰れてしまうというのです。
この様な状況の中で大金を投じ開業しようとなさる方々は、好業績継続営業を実現させる為、計画段階から十二分の準備をしなければなりません。

 私の仕事は、その皆様に我が事として寄り添い、誠心誠意のお手伝いをすることです。

 あらゆる事業の新規開業は、雪山登山に似ています。
登山では、登頂成功を目指す強固な意志、健全な肉体と身体能力、綿密な計画とリスクマネジメント、知識・経験・見識、あらゆる事態に対処できる装備等が求められます。その何れが不足していても失敗につながり、命さえ落としかねないからです。
幸いにも飲食店経営では、命を取られることはありません。しかし登山と同じで万全の準備を怠れば、成功どころか、存続さえ危ういことになります。

 2013年5月、80歳のプロスキーヤー三浦雄一郎さんが、エベレスト登頂に成功しました。
このプロジェクトには山岳ドクター大城和恵医師が、チームドクターとして参加していました。
三浦雄一郎さんはご高齢に加え、4回もの心臓不整脈手術を経験しています。この時の三浦さんの快挙と生還は、大城和恵さんの存在無くしては実現しませんでした。
 
 山岳ドクターは挑戦前の登山家に対し、体力や心肺機能などの測定結果をもとに、あらゆるリスクを減らす為のアドヴァイスをします。高山病、低体温症、凍傷等の予防と発症時の対策など、登頂成功と生還に果たす山岳ドクターの貢献度は、正に絶大です。
遭難防止の為のリスクコントロールは、有能な山岳ドクターの誕生により一気に進歩しました。

『 何か起きた時に対応するのではなく、起こさない為の対策を練る 』とは大城和恵さんの弁ですが、飲食店の新規開業に果たす私共の役割は、山岳ドクターと山岳ガイドを兼ねたようなものです。
 私共は、クライアントさんと二人三脚でチェックを重ね、開業に不可欠な条件を整えてゆきます。
もし私共だけでできないことが出てくれば、持っているネットワークをフル活用し、信頼できる専門家( 例えば弁護士さんなど )をご紹介しています。

 さてその私共の実務ですが、先ずはご相談から始まります。
どんな山ならクライアントさんにとって登頂可能か、公正な見極めをさせていただくことになります。つまりクライアントさんの資金、職能、経験等によって、どの程度の出店計画なら実現可能か、ご一緒に考察してゆくのです。もし、クライアントさんのご希望と現実の間にギャップがある場合には、一線を超えることが無いよう押し止めるのも私共の責任です。いわゆるドクターストップです。

 事業計画はことのほか重要で、そこには『 明確な起業動機 』と、心に確たる『 お店の理想形 』が無ければなりません。これを欠いた店舗運営は、目的の無い航海と同じです。燃料を浪費するだけで、得るものは何もありません。
事業計画書の作成には、的確なアドヴァイスをさせていただきます。しかしシミュレーションの核心は、ご自身でなさっていただくことにしています。何故ならば、長期にわたる健全経営実現の為には、これから始める事業全体を、正確に把握なさっていることが必須だからです。
 この段階では高収益を上げる為の、メニューや顧客獲得のアイデアもご提案させていただきます。
そのご提案には、聞き取りから得たクライアントさんの強みと可能性も、全て織り込んでゆきます。

 立地・物件探しをご一緒に乗り切ったら、100%の居抜き店舗でない限り店舗設計に取り掛ります。幸い日本中どこにでも、有能な設計士さんや工務店さんがいらっしゃいます。しかしその方達に丸投げすることは、賢明でありません。何故なら飲食店でのプロフェッショナルな仕事経験が無いと、客席や厨房の最適な、あるいはギリギリ許容できる動線・配置・通路幅が判らないからです。
その判断次第では、取れる席数や従業員数までもが左右されます。限られた面積を効率よく使うには、経験や見識による工夫と知恵が肝要です。更にはこの作業と併せ、費用対効果に優れた厨房機器や備品の選定も、同時進行で行ってゆきます。

 そしていよいよ肝心な、従業員さんの獲得です。
求人媒体や求人方法の選択は、費用の問題もある為、ご一緒に知恵を絞ることになります。また効果的な求人や応募者の面接にも、様々なテクニックが必要です。これらはご依頼があれば、私共が鋭意担当いたします。もちろん皆様がなさる場合にも、強力なバックアップをさせていただきます。採用基準は一にも二にも、『 お客さんを幸せにすること 』に心から共鳴してくれることです。何故なら飲食店で料理に勝る主力商品は、お客さんに対する、『 いたわりにも似た温かな心情 』だからです。

 事業の成否を考えると私共の責任は重大で、いつも身の引き締まる思いに囚われます。またいかに力を注いだからと言って、これで充分ということはありません。しかも課題は、多岐多様にわたります。
その中でも、敢えて飲食店事業で最も重要なことを一つに絞れば、それはソフトの部分、つまり目には見えない『 お客さんと従業員さんへの心に及ぼす作用 』であると考えます。宝くじにでも当たれば、ニューヨークの5番街でも開業できます。また資金が潤沢であるならば、どんな立派な内装にも仕上げられます。しかしお客さんと従業員さんからの支持を得られなければ、単なる箱でしかない店舗では、閑古鳥が鳴くことになるからです。

 私が初めてクライアントさんの従業員さんにご挨拶する時、必ず申し上げる言葉があります。
それは、『 社長さんは、皆さんが少しでも幸せな気持ちでお仕事ができ、待遇・処遇もより良いお店にしたいと、そう考えて私に仕事を下さいました 』という一言です。従って私の仕事の第一歩目は、経営者さんに本心からそう思っていただけるよう、下準備としてのお願いをすることから始まります。
私共の究極の役割は、高収益を挙げることで従業員さんの所得を増やし、従業員さんの精神的・経済的幸福がまた高収益へとつながる『 好循環事業 』の構築だからです。

 人は本来温かな心根を持っていますから、従業員さん方も人格を認められ大切にされれば、その心根は自然にお客さんや同僚へと向かってゆきます。
そしてその心根を、更に磨き上げるのが私の役割です。
仕上げに、残る二つの重要課題である『 気付き 』そして『 安全で効率的な動き方 』のトレーニングもこなし、いよいよ開店日へと向かってゆきます。

 従業員さん方の善き心根は、料理の味まで進化させてゆきます。
私は皆様方に、『 飲食店が作るべきは実は料理ではなくお客さんで、売るべきものは幸福感である 』という認識を持ってくださるようお願いしています。そして『 最も重要な主力商品は、経営者さんや従業員さん 』なのだということも、必須の認識課題であるとお話ししています。
以上の認識が定着すると、立ち飲み酒場からグランメゾンまで、料金以上の大満足を、お客さん方に感じていただけるようになります。
顧客エンゲージメントや顧客ロイヤルティーは、こうして生まれてくるのです。

 誰かを幸福にする行為は、鏡に向かって光を放つのと同じです。
つまりお客さんを幸せにすると、反射してくる光によって従業員さんや経営者さんも、幸福な気持ちでお仕事ができるようになるのです。また従業員さんに光を当てると、反射する光はお客さんに届くばかりか、経営者さんにまで返ってきます。この好循環が日に日に収益を増やし、気が付けば皆様のお店は理想的な飲食店になっているのです。

 いずれにせよ私共ISRと皆様との共同作業により、新規開業店は物理的な箱としての店舗ではなく、『 心暖まる理想空間 』を目指し第一歩を踏み出すことになります。

 

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