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第 5 回  ある、心に沁みるカフェのお話

2016.12.18

 そのお店は私共の事務所から、直線距離にして150m程の所にあります。
しかしそこは私が普段あまり通らない場所なので、開店後しばらくは存在に気が付きませんでした。
( このコラムを書いた2016年12月の時点で、開店2年と2か月目だそうです )
 
 ある日、そのお店の前を偶然通り「 あっ、新しい店ができてる 」と思い中に目をやると、調理場の女性と目が合いました。すると、えも言われぬ自然な笑顔で会釈されたのです。
私も笑顔で会釈を返し、「 仕事をしながらよく外にまで気を配って 」と感心すると共に、何ともすがすがしい気持ちになりました。店構えも清楚かつ慎ましやかで、経営者の人となりを想像させます。
「 こういうお店なら、出てくる料理も美味しいんだろうナ~。妻を連れて来たら、きっと喜ぶに違いない 」、そう思いました。

 それからしばらく経ち、妻と一緒に初訪問を果たしました。
入り口まで行くと直ぐに気付いて引き戸を開け、私達を親しい友人の様に迎え入れてくれました。 
 こぢんまりしたテーブルに落ち着くと、お店は若い女性お二人での切り盛りで、双方とてもよく似ています。「 お姉さんとお妹さんですか? 」と聞くと、そうだとのこと。
全ての受け答えは丁寧過ぎることもなく、誠実さが滲み出ています。その日は丁度寒い日でしたから、温かい湯船につかった様な心地好さでした。見ていると、手が空けばお帰りのお客さんの荷物を持ち、外へ送り出すことさえしています。

 さていよいよ注文です。
定食メニューは日替わりで、肉と魚の二通りです。そこにまた日替わりの小鉢四種類から二つ選ぶことができ、お味噌汁か舞茸鶏出汁スープのどちらかも、好きな方を選べます。
夜には単品メニューも有るのですが、何もかも丁寧に説明しながらオーダーを聞いてくれます。小さなお店で客席数は少ないのですが、決して回転効率を考えた客さばきはせず、『 お客さん本位 』を絵に描いたような接客です。満席でお客さんが入れないでいると、外まで出て行ってご挨拶と何やらお詫び説明もしていました。
 食後の飲み物も僅か100円で提供され、人気メニューには、ホイップクリームがたっぷり添えられた自家製パウンドケーキも有ります。安価なランチビールはサーバーからの美味しいハートランド生で、クミン入り自家製クラッカーが付いてきます。
 
 食の安全には充分の配慮がなされているとのこと。小さな黒板の隅に「 できるだけ添加物や保存料を使用しないで料理しています 」と書いてありました。
 
 一つ一つ丁寧に作っているのでしょう、しばらくして待望の定食が運ばれてきました。配膳にも心配りが感じられ、心根の良さが随所にうかがえます。
 先ず香りを楽しんでから、箸をつけました。私は元々料理人ですので食べ始めて直ぐ、食材の鮮度や食味が水準以上で調理法も優れていることに気が付きました。ランチは800円、ディナーが850円でこのクオリティーは、料理だけでも優良店です。
 
 しかしここで声を大にして申し上げたいのですが、飲食店の価値は、料理以外の様々な要素でも語られるべきだと思うのです。私は常々飲食店に対し世の中では、お皿の上だけに評価がかたより過ぎていると感じています。
 
 人間にとっての食事とは、他の動物がエサで空腹を満たす行為とは全く異なります。
精神的意味や文化的側面まで持つ人間の食事行為は、充足感、幸福感、安心感等が加われば、味覚満足も大きく膨らんでゆきます。配膳する人の笑顔での一言も、食事する楽しさを殊の外引き上げます。
ましてそれが心からのものであれば、効果は更に絶大です。
 この要町のカフェには『 誠の心 』が満ち満ちていて、世界最高のホスピタリティーと自他共に許す某ホテルのレストランとの比較でも、決して引けを取りません。
 
 私達はどうしても『 演出を伴うサービス 』に目を奪われがちで、メディア等もそこに視点を置いて語ります。しかしこのカフェに在るのは大切な友人や家族への『 真心 』に通ずるもので、これこそが、サービスと混同されますが『 ホスピタリティー 』だと思うのです。温かな眼差し、さりげない心遣いや会話、用意されたひざ掛け、間伐材を使った日本製の割箸、安全な食材、手間をかけた料理etc. 
これらはお二人を幸せにしてくれるお客さんへの、『 感謝の気持ち 』が具現したものだと感じます。
『 食べ手を想う心 』が大きければ、料理も必然的に美味しくて安全なものになるものです。
 私が敬愛して止まなかった、故ベルナール・ロワゾ―の一言を思い出しました。
『 ママの料理にはかなわないナ~ 』。
 
 商業主義とは無縁の、『 野のユリ 』のようなおこの店。お二人の振る舞いや声音そして料理から、心の内は充分伝わってきます。しかしちょっとだけ、口コミやコラムを覗いてみました。

 「『 セブンイレブンには出来ないことを 』という、想いも、コンセプトも、お二人のほっこりした雰囲気も素敵すぎます!」と、常連になったお客さんが書き込みをしていました。
 
 雪の日のお二人のコラムには、「 私達姉妹の一番の気がかりは、農家の高橋さん大丈夫かな?畑、大丈夫かな?ということでした 」と有り、「 高橋さん、いつもどうもありがとうございます 」とも
書かれていました。安全で美味しい野菜は、信頼できる農家さんから直接仕入れていたのですね。
 開店二周年目のコラムは「 、、、、、、、。日々、感謝しながら、精進して仕事をしているつもりですが、まだまだ足りないことだらけで、私達姉妹の毎日仕事終わりの反省会は課題でいっぱいです。
いらして下さったお客様に、不愉快な思いをしないでお帰りいただけるよう、、、、、中略、、、、、課題克服や、新メニューの試作などの為に、今まで水曜日と金曜日のランチ後に、いったん閉店させていただいていますが、勝手ながら木曜日も一旦閉店させていただくことにし、さらなる努力をしてゆく決意でいます。ゆっくりとではありますが、進んでゆきたいと考えています 」 でした。
長時間営業なので中休みを取っているのだと思っていましたが、こういうことだったとは・・・・・。

 私の仕事は『 事業としての飲食店 』の、顧客満足、種々の効率、コスト・マネージメント等を追求し、クライアントさんが高収益を挙げるお手伝いをすることです。そしてその収益は、スタッフさん達の処遇と賃金に還元されます。
 しかしお二人は収益を二次的なものと考え、『 人生の満足度 』に殉ずる様な営業スタンスを取っています。つまり、『 誠意を尽くすことは人生の目的であって手段ではない 』という生き方なのです。
 お二人の人となりに接していると、一服、いや二服三服の、上質な清涼剤を口にする心地です。
 
 このご商売の仕方に華々しさはありませんが、たとえ多くはなかったとしても、収益は自ずから付いてきます。

 何れにせよオアシスの様なこのカフェは、常連のお客さん方にとって大切な宝物となっています。

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